韓国ヒョンデの高級車ブランド【Genesis】が立ち上げたハイパフォーマンスブランド【Magma】。
ポルシェやBMWなど欧州の強豪に真っ向から勝負を挑み、世界最高峰のル・マン24時間レースで培う技術を市販車へと直接還元していくという。
本記事では、驚異的なスペックを誇る高性能EV「GV60 Magma」をはじめとするラインナップから、その野心的な戦略まで、スポーツカー市場を揺るがす「マグマ」について見て行こうと思う。
Genesisの新たなハイパフォーマンスブランド「Magma」
ヒョンデの高級車ブランドであるGenesisが新たに立ち上げたパフォーマンス部門、それが【Magma】である。
その名の通り、地底から湧き上がるような情熱とエネルギーを象徴する鮮やかな「マグマ・オレンジ」をシンボルカラーに据え、世界のスポーツカー市場に熱い旋風を巻き起こそうとしている。
Magmaとは何か?
Magmaが掲げるコンセプトは、高級GTカーとしての極上の快適性と、サーキットを攻め立てる俊敏性の高次元な融合である。
日常の足として優雅に振る舞いつつ、いざとなればドライバーの闘争心を呼び覚ます究極の日常向けスポーツカーを目指している。
BMWの「M」やメルセデスの「AMG」がそうであるように、Genesisは今後すべてのラインナップにこの特別な「Magma」モデルを展開していく方針であり、その本気度は計り知れない。
ラインナップ
ブランド初の高性能EV「GV60 Magma」

Magmaブランドの先陣を切ったのが、高性能電動SUV「GV60 Magma」である。
デュアルモーターによる全輪駆動システムを採用し、ブーストモード時には最高出力641馬力、最大トルク790N・mという数値を叩き出す。
しかし、単なる「直線番長」ではない。
電子制御式リミテッド・スリップ・デフや専用チューニングされたアダプティブサスペンションが、強大なパワーを余すことなく路面へと伝達する。
さらに昨今のEVに搭載されがちなギミックではあるものの、EVでありながら内燃機関の鼓動や変速ショックを緻密に再現するVirtual Gear Shift(仮想シフト)と模擬エンジン音、そしてドリフトモードの搭載だ。
無機質になりがちなEVのドライブに、五感を直接刺激するエモーショナルな歓びを付加している。
米国では約7万1,495ドル(日本円で約1130万円)というスペック相応の大台価格にもなっている正真正銘の高性能SUVだ。
中東限定の本気仕様「G80 Magma」

続いて登場した「G80 Magma」は、EVとは異なる、生粋の内燃機関の魅力を放つ。
標準モデルの心臓部に手を入れた3.5リッター・ツインターボV6エンジンは、525馬力まで引き上げられた。
ワイド&ローを強調した専用ボディに、レーシーなカーボンファイバー製のエアロパーツを装着。
車内にはホールド性抜群のレカロ製バケットシートやアルカンターラ内装を奢るという本気ぶりだ。
このモデルは中東市場向けにわずか20台のみが限定生産されるという、極めて希少なコレクターズアイテムとなっている。
スーパーカーの領域へ「Magma GT」

そして、世界中のエンスージアストが熱視線を送るのが、将来的な市販化が見込まれるスーパーカー「Magma GT」だ。
座席後方にV8エンジンをマウントするミッドシップレイアウトを採用し、名だたる欧州のピュアスポーツカーの領域へと真っ向から踏み込んでいく。
これはMagmaは単なるドレスアップブランドではなく、本物のスポーツカーを生み出す意志を持っていることの何よりの証明である。
欧州の強豪への挑戦
新興ブランドがハイパフォーマンスカー市場に参入する際、超えるべき高く険しい壁が存在する。
それは、数十年…時には100年以上の歴史にわたるモータースポーツの歴史と技術的蓄積を持つドイツの強豪たちだ。
しかし、Genesisは「Magma」を通じて、彼らから逃げるのではなく、真っ向から勝負を挑む決意を固めている。
ポルシェ、BMW、アウディを直接の標的に

Genesisの幹部は、Magmaの購入検討層が比較対象とするブランドとして、BMWの「M」、アウディの「RS」、そしてポルシェの名を明確に挙げている。
例えばEVの領域においても、ポルシェ・タイカンといった超一級の電動スポーツカーが直接のライバルとして視界に入っているのだ。

Magmaの立ち位置を象徴する、エンスージアストの心をくすぐる興味深いエピソードがある。
初期の社内向けマーケティング資料には、世界で最も過酷なサーキットとして知られる「ニュルブルクリンク・ノルトシュライフェ」のコース図が描かれていたという。
そこではコースのセクションが2色に塗り分けられていた。
ツイスティでテクニカルなタイトコーナーは、ヒョンデのパフォーマンスブランドである「N」を象徴するライトブルーに。
そして、度胸と圧倒的なパワーが試される超高速のスイーピングコーナーやロングストレートは、「Magma」のシンボルカラーであるオレンジで彩られていたのだ。
この見事な棲み分けは、Magmaが単なる機敏さやラップタイム至上主義を目指すのではなく、超高速域を優雅かつ力強く駆け抜ける至高のグランドツーリングを見据えていることを物語っていると見える。
ポルシェ911に匹敵する野心的なバリエーション展開

そして、Magmaブランドの欧州強豪に対する本気度を最も端的に示しているのが、先陣を切るスーパーカー「Magma GT」の市販化計画である。
彼らはただ一つのモデルを世に送り出して満足するつもりはない。
その戦略は、スポーツカーの永遠の金字塔である「ポルシェ911」のそれと酷似している。
Genesisのチーフ・クリエイティブ・オフィサーであるルク・ドンカーヴォルケ氏の言によれば、Magma GTは単一のモデルではなく、驚くべき広がりを持つ「ファミリー」として計画されている。
ベースモデルを起点に、よりスポーティな「S」や「GTS」、オープンエアの歓びを堪能できる「ロードスター」を展開。
さらにコアなエンスージアスト向けには、無駄を削ぎ落とした軽量なクラブスポーツ、そのままサーキットを走れる公道走行可能な「GT3仕様」、そして究極のサーキット専用マシンである「GT3 R」に至るまで、ありとあらゆるバリエーションを網羅する構えだという。

ひとつの基本設計からこれほどまでに多様なキャラクターを生み出し、すべてのスポーツカーファンの要求に応えようとするその野心は、まさにポルシェ911が半世紀以上かけて築き上げた帝国への挑戦状と言えるだろう。
しかし、彼らは単なる無謀なチャレンジャーではない。
車両開発部門のトップであるマンフレッド・ハラー氏は、ポルシェ911との比較について「あのような偉大なアイコンに正面から抗うことはできない。我々は独自の道を見つけ出さなければならない」と語り、先人への深い敬意を示しつつも、Genesisならではの新しい価値を追求する姿勢を崩していない。
ドライバーの背後で咆哮を上げるエンジン、完璧な重量配分をもたらすミッドシップレイアウト、そして隙のない多彩なモデル展開。
Magma GTは、欧州の伝統的なスポーツカーメーカーにとって、決して侮ることのできない新次元の脅威として、今まさに産声を上げようとしている。
モータースポーツの頂点へ:ル・マンへの挑戦と技術の還元
Genesisが本物のパフォーマンスブランドとしてクルマ好きから認められるために選んだ主戦場、それが世界最高峰の耐久レースである。
彼らは単なるスポンサーとしてではなく、自らの技術力を極限状態において証明する道を選んだ。
耐久レース専用ハイパーカー「GMR-001」

新設されたファクトリーチーム「Genesis Magma Racing」は、FIA世界耐久選手権(WEC)、そしてその頂点に君臨する伝統のル・マン24時間レースのハイパーカークラスへと参戦する。
その過酷な挑戦のための専用マシンとして開発されたのが「GMR-001」だ。
LMDh規定に基づいて設計されたこの野心的なレーシングカーは、専用開発された3.2リッター・V8ツインターボエンジンに、リアマウントされた50kWのハイブリッドモーターを組み合わせている。
2026年4月のWEC第2戦「イモラ6時間レース」から参戦し、欧州の強豪ひしめく超高速域でのバトルに真っ向から挑んでいる。
リアルとバーチャルでのブランド訴求

彼らの戦いの舞台は現実のサーキットにとどまらない。
Genesisは公式eスポーツチームである「GMR Esports」を立ち上げ、WECの公式シミュレーターである『Le Mans Ultimate』を用いたシムレーシングの世界にも本格参戦を果たした。
元世界チャンピオンをリーダーに据え、現実のレース活動と並行してバーチャル空間でもしのぎを削ることで、より幅広い世代のモータースポーツファンへとMagmaブランドの情熱をダイレクトに届けている。
極限のレースから市販モデルへの技術還元

なぜ、Genesisはル・マンという過酷な24時間レースにこだわるのか。
それは、他のブランドがそうだった様にGenesisにとってもこのレースが「走る実験室」として市販車開発に直結しているからに他ならない。
24時間、総走行距離5,000km以上をアクセル全開で走り抜く中で培われるハイブリッドシステムの緻密なエネルギー回生やパワー制御、極限状態での熱管理、そしてシャシーの耐久性データは、市販車の空力パーツやサスペンションの最適化へと即座にフィードバックされる。
例えば、前述した「G80 Magma」の姿には、その哲学が色濃く反映されている。
ダウンフォースを最適化するレーシングカー譲りのカーボンファイバー製エアロパーツで武装し、バネ下重量を軽減してハンドリングを研ぎ澄ます軽量21インチホイールを装着。
さらに、排気効率を高めた専用のパフォーマンスエキゾーストシステムや、熱ダレを防ぐ強化ブレーキに至るまで、ル・マンで得た知見が惜しみなく注ぎ込まれているのだ。
モータースポーツの熱狂と技術を、そのまま日常のドライビングへと昇華させること。それこそが、Genesisがル・マンに挑む真の狙いである。
おわりに

Genesis「Magma」の台頭は、世界の…そして、日本のスポーツカー市場において決して対岸の火事ではない。
親会社であるヒョンデグループは、2030年までに77兆3000億ウォン(約8兆円強)という莫大な投資を計画している。
こうした圧倒的な資本力と開発スピードを背景に、欧州の強豪ひしめくル・マンへの参戦と、そこで得た極限の知見を市販車へフィードバックする体制を同時並行で推し進めているのだ。
長年、モータースポーツと市販スポーツカーの分野で世界を牽引してきた日本の自動車メーカーにとって、この新興勢力の野心的なアプローチは、プレミアム市場におけるかつてない強力なライバルとなるに違いない。
事実、ドイツ旅行をしていた際にも感じたが、ドイツやオーストリアなどではもはや日本車よりも韓国車の方が走行台数が多いくらいである。
韓国車の台頭とさらなる高性能モデルの投入は日本車にとっては想像以上の脅威となるだろう。
出典:DRIVE

