さて、今の私の愛車ことメルセデスAMGのGLA45Sには特別不満はないのだが、動力性能よし・インフォテイメントよし・パッケージングよし・運転快適性よし!とあまりの優等生ぶりに少し愛嬌のある子が欲しいと思っている今日この頃である。
そう思っていた矢先に近所のフランス車専門店の軒先にプジョーの106が展示されていたのを目にして、少し気になっている次第である。
今日は、そんなプジョー106について、軽くお話ししていこうかと思う。
なぜ今さら、プジョー106に惹かれるのか?
プジョー106が本国で誕生したのは1991年。
執筆時点から見れば30年以上も前のコンパクトカーだ。
別に何かのメディアで活躍している訳でもないし、特別プレミアがついている様なクルマでもない。
ただ、それゆえにどこか”外してる”感があるのも個人的にはポイントだ。
肥大化・複雑化する現代のクルマに対する、ある種の「アンチテーゼ」
現代の自動車は、20,30年以上前からすると信じられないほどに進化を遂げた。
衝突被害軽減ブレーキやレーンキープアシストといった高度な先進安全装備はほぼ標準化され、ハイブリッドやEVといった電動化技術によって、かつてないほどの快適性と環境性能を手に入れた。
しかし、その代償としてクルマは年々大きく、そして重くなり続けている。
例えば、プジョーの最新コンパクトEVであるe-208ですら車重は約1,500kgにも達する。
私の愛車ことGLA45Sも約1,800kgの車重に加えて、先進安全装備にシートベンチレーション等の快適装備も加わり、421PSのリトルモンスターとは言え、道中は快適そのものだ。
ただ、ふと重苦しさの様な何かを感じなくもない。
分厚い防音材に囲まれた密閉空間で、電子制御に監視されながらステアリングを握り、変速も賢いDCTがスムーズに行ってくれる。

確かに安全で快適だが、なんと言うか…そう、生々しさに欠ける感じが付きまとう。
そんなモヤモヤとした思いを抱える今だからこそ、私の心は1台のちょい古なフランス車に惹きつけられているのかもしれない。
「軽さ」という絶対的な正義とプリミティブな対話
それに加えて、プジョー106には現代の最新スポーツカーすら持ち得ない、ある決定的な武器がある。
それが「圧倒的な軽さ」だ。
最上級のスポーツグレードである「S16」でさえ車重はわずか950kg程度だ。
この1tを優に切る軽さこそが、現代のコンパクトカーにはない106の大きなアイデンティティであり、自動車の物理法則における絶対的な「正義」だろう。
そしてもう一つ、私がプジョー106に強烈なノスタルジーと憧れを抱く理由がある。
それは、ドライバーとクルマとの間に介入する余計な「フィルター」が存在しないことだ。
トラクションコントロールや横滑り防止装置といった電子制御デバイスに頼らず、アクセルの踏み加減、ブレーキの抜き際、ステアリングの舵角といったドライバーのあらゆる操作が、ダイレクトに車の挙動として現れる。

トーションバー式のリアサスペンションゆえに、限界を超えれば容赦なくテールが流れるという手強いシビアさも持ち合わせているが、それゆえに「クルマを自分の支配下に置く」という、ヒリヒリとするような実感を得ることができるのだ。
現代のクルマが失ってしまった「アナログな運転の楽しさ」。
機械と人間が純粋に対話しながら、一本の線をなぞるようにコーナーを駆け抜ける快感。
プジョー106にはスペックシートの数字だけでは決して測ることのできない魅力が詰まっている様に思う。
だからこそ、私は今、この小さなフレンチホットハッチに気を惹かれている。
勿論、このクルマを所有するとするなら、ぜひスリーペダルのマニュアル車を選びたい所存である。
プジョー106の気になるポイント

◆プジョー106 S16の諸元
| エンジン | TU5J4/L |
|---|---|
| 馬力/トルク | 118PS/142N・m |
| 駆動方式 | FF |
| ボディサイズ | 3690×1620×1370mm |
| 重量 | 960kg |
官能的なエンジンと伝統の「ネコ足」が織りなす極上のハーモニー

S16に搭載される1.6L DOHC 16バルブエンジンは、最高出力118ps。
現代のスペック至上主義から見れば控えめな数字に思えるかもしれない。
しかし、1トンを切るボディと組み合わされれば、必要十分だろう。
むしろ、日本の道路環境でも扱える丁度良いパワーになると想像できる。
走りの面でもう一つ外せないのが、プジョー伝統のサスペンションセッティング、通称「ネコ足」だろう。
フロントにマクファーソンストラット、リアにトレーリングアームとトーションバースプリングを組み合わせた足回りは、しなやかな乗り心地と優れた旋回性能を高次元で両立している様だ。
一度味わうと病みつきになると噂のネコ足を是非とも味わってみたいところである。
扱いやすいコンパクトボディ

あとは非常にコンパクトなボディサイズも今となっては魅力の一つだと個人的には思う。
全長は4mを遥かに下回る3690mm。全幅たった1620mmしかない。
今どき、日本車でも軽自動車を除けばここまでコンパクトな車体は少ないのではなかろうか。
この小さなボディとそれに伴うショートホイールベースは、狭隘な日本の道路環境や峠道をヒラヒラといなしながら駆け抜けることができるだろう。
私自身、大きなクルマよりも小さなクルマを好むので、この非常にコンパクトなボディは嬉しいポイントだ。
色褪せない、ピニンファリーナの息吹を感じる端正なデザイン

あとは何といってもエクステリアだろう。
全長約3.6mという極小のパッケージングでありながら、一切の破綻を感じさせない完璧なプロポーション。
106のデザインはプジョー社内の手によるものだが、当時ピニンファリーナと協業していた一連のプジョー車のデザイン潮流が色濃く反映されており、フランスとイタリアの美意識が見事に融合している。
無駄なプレスラインを排したシンプルなフォルム、そして四隅でしっかりと踏ん張るスタンス。
どこから見ても端正で、小粋で、凛としている。
誕生から30年以上が経過した今、時代の流れこそ感じるものの飽きがこないそのタイムレスなデザインは、プジョー106を選びたい大きな理由だ。
タマ数の少ない中古車市場
本国での生産終了から20年以上が経過した2026年現在、プジョー106を中古車市場で探すのは容易ではない。
執筆時点でカーセンサーに掲載されている台数はS16とラリーのグレードを足しても6台程度しかない。
価格相場もこの車格としては高値という所で、100万円台後半から200万円を超えるプライスタグが掲げられているといったところ。
とはいえ、現代のクルマでは絶対に味わえない純粋な「軽さ」と「プリミティブな運転の楽しさ」…それと昨今のインフレを考えれば、この価格は打倒といった所だろう。
おわりに

正直、車体を手にするだけでなく、維持していくことも容易ではないだろう。
私の愛車遍歴の中で、低年式だったのは2006年式のポルシェボクスターを所有していた程度のため、ネオクラシックの維持手間については未知数だ。
そのため、感覚的な話にはなるが、生産終了から年数も経過して、純正パーツは枯渇しつつあるだろうし、エアコンやオルタネーターといった電装系のトラブルとも無縁ではいられないだろう。
ただ、そういったリスクを背負って…そして、少し楽しむつもりで106をガレージに迎えるのも一つの愛車遍歴としてアリだなと思う。
1tを切るフェザー級のボディ、レッドゾーンまで回せるエンジン、そしてドライバーの意思にダイレクトに応えるアナログなステアリングフィール。
高度な電子制御と引き換えに現代のクルマが失ってしまった機械との濃厚な対話を楽しめることだろう。
一生に一度は味わいたい
自動運転化や電動化が加速し、クルマが単なる「快適な移動空間」へと変貌を遂げつつある現代。
ドライバーが主役となり、五感をフルに研ぎ澄ませて操るプジョー106のような存在は、もはや二度と新車で生み出されることはないだろう。
維持には覚悟が必要かと思うが、峠道のコーナーをひとつクリアするたびにおそらく思わず笑みがこぼれてしまうような、クルマだろう。
プジョー106は熱き時代のフレンチホットハッチと、濃厚で刺激的なカーライフを送ることができるだろう。
まだ、一度も経験したことのないフランス車…うーむ気になる1台だ。

