実用性や効率、あるいは電動化の波ばかりが重視される現代の自動車業界。
そんな中でクルマ好きの心を大きく揺さぶるニュースが、我らが日本のマツダから飛び込んできた。
海外メディアで報じられた、マツダの最新特許情報。
そこには、なんと「バタフライドア」を採用した次世代のFRスポーツカーの姿が描かれていた。
突如現れた「バタフライドア」の特許:マツダが描く新たなデザインの衝撃


新たに公開された「FRオープンスポーツ」の特許図面
2026年7月、海の向こうの米国特許商標庁から突如として舞い込んだニュースが、世界中のクルマ好きの心をざわつかせている。
マツダの出願した新たな特許図面…そこにはコンパクトな2シーターオープンスポーツのシャシー骨格が描かれていた。
そしてCARBUZZによるとアイコニックSPに特許図面を重ね合わせた所、ヒンジの線がほぼ 45 度の角度であることから上方へ斜めに跳ね上がるバタフライドアになると想定している。
一般的にバタフライドアといえば、マクラーレンやフェラーリといった数千万円クラスのスーパースポーツだけの特権だ。
例外的に言えば、過去にトヨタのセラが導入した事例やバタフライドアではないが、同じく上開きするドアとしてマツダのオートザムAZ-1がガルウイングを採用した事例もある。
そういった例外を抜きにすれば、やはりスーパーカー級の特権的機構と言える。


「オープンカーにバタフライドア」——言葉にするのは簡単だが、屋根を持たないコンバーチブルモデルにおいて、それを支えるだけのボディ剛性を確保することは技術的に困難を極める。
しかし、特許図面に描き込まれたディテールからは、マツダのエンジニアたちの異常なまでの「こだわり」と執念が透けて見える。
図面では、フロントのAピラーをサスペンションのショックタワーに限りなく近づけることで、シャシー剛性を極限まで高める構造が提案されている。

さらに興味深いのが、「ブレース手綱」と名付けられた補強構造だ。
これは、サスペンションの取り付け部にかかる強大な荷重を、補強されたAピラーへと的確に伝達・分散させるための仕組みである。
コンバーチブルルーフでありながら、特殊なヒンジドアを機能させるための巧妙な工夫といえる。
また、「エプロンフレーム」と呼ばれるプレス加工された金属ブレースが、シャシーのフロントコーナーと乗員を守るファイヤーウォールを強固に連結。
重量増加を最小限に抑えながら剛性を飛躍的に向上させるとともに、万が一の衝突時には衝撃荷重をサイドシルから車両後方へと効率よく逃がす構造まで想定されている。
軽快なハンドリングと絶対的な安全性を両立させるための、緻密かつ情熱的なエンジニアリングの結晶である。
まさかのロータリーは不採用という事実
ここまでされてしまったら期待せざるを得ないだろう…。”アレ”を。
2023年ジャパンモビリティショーで公開された「アイコニック SP」に搭載されたロータリーEVシステムの市販版!
と気が急いてしまう所だが、今回公開された特許資料においては、残念ながら直列4気筒エンジンと、コンベンショナルなトランスミッショントンネルというところだ。

これは一体、何を意味するのか。軽量かつ手頃な価格というロードスターの絶対的哲学を考えれば、コストと重量がかさむ複雑なバタフライドアを採用するとは考えにくい。
そうであれば、この特許は「アイコニック SP」をあえて純粋な内燃機関モデルとして市販化する布石なのだろうか?
あるいは、次期ロードスターとアイコニック SPが同じプラットフォームを共有するという、マツダの新たなスポーツカー群の根幹を示すアーキテクチャそのものの特許なのだろうか?
ただ、ロータリーは非搭載ながらも、マツダが内燃機関×FRというクルマ好きが最も愛する「走る歓び」の黄金レシピを全く諦めていないということはヒシヒシと伝わってくる。
コスモスポーツからロードスターまで:マツダが紡いできたスポーツカーの系譜
新たな特許図はどんなマツダのスポーツスピリットを体現しようとしているのだろうか。
マツダが見据える新たなスポーツカーの姿を紐解くために、彼らがこれまでどのような想いでスポーツカーの歴史を紡いできたのかを振り返ってみようと思う。
マツダのスポーツカーの系譜は、大きく2つの太い柱によって支えられている。
「ロータリーエンジン」という孤高の挑戦と、「人馬一体」を追求したライトウェイトスポーツの歴史だ。
「ロータリー」という名の孤高の挑戦

1967年、マツダは世界に先駆けて実用・量産マルチローターのロータリーエンジン搭載車「コスモスポーツ」を世に送り出した。
極限まで低く構えた未来的で宇宙船の様なフォルムは、軽量かつコンパクトなロータリーエンジンだからこそ実現できたデザインだった。
エンジンを前輪の車軸より後方に配置し、運動性能を高める「フロント・ミッドシップ」の思想は、すでにこの時からマツダのスポーツカー作りの根底に息づいていたのである。


その後、ロータリーの系譜は「サバンナRX-7」へと受け継がれていく。
1978年に誕生した初代SA22C型は、リトラクタブル・ヘッドライトを備えた流麗なスタイルで人々を魅了し、続く2代目FC3S型では、トーコントロールハブを備えた独立懸架サスペンションを採用し、「4WS感覚」と呼ばれる鋭いコーナリング性能を手に入れた。
そして1991年、究極のロータリースポーツである3代目FD3S型が登場する。
心臓部には、低回転域のレスポンスと高回転域の圧倒的なパワーを両立させる「シーケンシャルツインターボ」を備えた13B-REW型エンジンを搭載。
幾度もの改良を重ね、ついに当時の自主規制上限である280馬力へと到達した。
無駄を削ぎ落とした軽量ボディと、見る者を虜にする妖艶なプロポーションは、今なお…いや、今になってより一層世界中のエンスージアストから熱狂的な支持を集めている。
そして、この1991年という年は過酷なル・マン24時間レースにおいて、感涙もののエキゾーストノートを響かせる4ローターエンジン「R26B」を搭載したマツダ787Bが、日本車として…そしてロータリーエンジン車として初の総合優勝という歴史的快挙を成し遂げた年でもある。
ロータリーが放つ官能的なフィーリングと絶対的な速さは、マツダの「飽くなき挑戦」の象徴なのだ。
「人馬一体」を世界語にしたロードスター

一方で、マツダのスポーツカーのもう一つの柱が、1989年に誕生した初代「ユーノス・ロードスター(NA型)」に端を発するライトウェイトオープンスポーツの系譜であることは間違いない。
当時、世界中で絶滅の危機に瀕していた手頃な2シーターのオープンスポーツカー市場に、マツダはあえて挑戦した。
ロードスターが目指したのは、絶対的なエンジンパワーに頼る速さではなく、ドライバーの操作にクルマが素直に反応する「人馬一体」の歓びである。
その実現のために、フロントミッドシップによる理想的な50:50の前後重量配分、専用設計のダブルウィッシュボーン式サスペンション、そしてミッションとデフを強固に結んでダイレクトな操作感を生むパワープラントフレームなど、走りの純度を高めるための贅沢な専用設計が惜しみなく投入された。
速さよりも操る楽しさを徹底的に追求したロードスターは、瞬く間に世界中で大ヒットを記録し、国内外の自動車メーカーに多大な影響を与えた。
あのポルシェの経営危機を救ったボクスターもロードスターに触発されたものだし、同じドイツで言えばBMWのZ3やメルセデスのSLKも同様だったはずだ。
もっと近しい軽量オープンスポーツで言えば、少々マイナーだがフィアットのバルケッタもそうだろう。
現在でも「世界で最も多く生産された2人乗り小型オープンスポーツカー」としてギネス世界記録を更新し続けており、現行のND型に至るまで、徹底した軽量化と「走る歓び」の哲学は脈々と受け継がれている。
ロータリーエンジンがもたらす圧倒的な高揚感と、ライトウェイトスポーツが教えてくれるクルマと対話する楽しさ。
この全く異なるアプローチを通じて、マツダは常にドライバーの魂を揺さぶる「走る歓び」を世に問い続けてきたのである。
日本のスポーツカーはどこへ向かうのか?これからの「走る歓び」の展望

令和のいま、世界の自動車産業はかつてない規模の電動化と自動運転へのシフトを余儀なくされている。
地球環境の保護や効率性の追求は、避けては通れない重要な課題だ。
けれど、移動が単なる「A地点からB地点への自動的な移動」になり下がった時、私たちの心から「移動する歓び」は失われてしまうのではないだろうか。
このような時代にあって、マツダがあえてこれほどまでにエモーショナルで、かつガソリンエンジンの官能性を残したスポーツカーの特許を出願した意義は大きい。
彼らは「どれだけ時代が変わろうとも、人間が手で操り、美しさに心を震わせるスポーツカーを絶やしてはならない」という強いメッセージを、発信しているのだと私は勝手に読み取っている。
カルチャーとしての日本車:世界が憧れるJDMスポーツのネクストステージ
現在、JDMカルチャーは、日本を飛び越えて世界中で一種の信仰に近い熱狂を生み出している。
GT-Rやスープラをはじめとしたかつての1990年代の日本のスポーツカーたちが、海外のオークションで高値で取引され、若者たちの憧れの的となっている。
しかし、私たちは過去の遺産だけにすがりついて生きていくわけにはいかない。
マツダが提案しようとしているこのバタフライドアのスポーツカーは、JDMカルチャーを次のステージへと押し上げる「新世代のフラッグシップ」となる可能性を秘めている。
現代の最新工学と日本の繊細な美意識、そしてマツダが培ってきた魂動デザインが融合した、私がおじいちゃんになる頃の名車候補である。
この美しい「翼」を広げたスポーツカーが公道を走り出す姿を想像するだけで、私たちが歩むこれからのカーライフの未来は、決して暗いものではないと確信できる。
5. まとめ
マツダが提案するバタフライドアの特許は、単なるデザインの奇をてらったものではなく、走りの性能を極限まで高めるための技術的アプローチから生まれた究極の機能美であった。
それは、かつてコスモスポーツやロードスターが世に送り出した「走る歓び」を、現代そして未来の技術で再定義しようとするマツダの強い決意の表れでもある。
効率や実用性ばかりが語られる時代だからこそ、こうしたエモーショナルなスポーツカーの存在が、私たちの人生に彩りを与えてくれる。
そんな心躍る週末を彩ってくれる存在がまだ日本のブランドから輩出されることを素直に嬉しいと思う。

