イギリス・ウェスト・サセックスの広大な敷地で開催される「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」。
ガソリンの匂いとタイヤが焼ける音、そして往年の名車たちが放つ咆哮が交錯するこのモータースポーツの聖地において、2026年7月9日、メルセデスAMGがまた一つ新たな世界を提示した。
それが、新型【メルセデスAMG CLA 45 4MATIC+】のワールドプレミアである。
今回はなんとフル電動化されての登場になる。

フロントには10本の垂直ルーバーを備えたパナメリカーナグリルが鎮座し、星型のシグネチャーを配した最新のヘッドライトが未来を鋭く射抜く。
システム合計出力は680ps、最大トルクは驚愕の1,759Nmに達する。
これは先代CLA 45S(C118)に搭載されていたM139エンジンの2.0L 4気筒ターボで421PS/500N・mを遥かに凌駕し、コンパクトセグメントの枠組みを完全に破壊するスペックを引っ提げての登場となった。
フル電動化により得た驚異の動力性能


◆メルセデスAMG CLA 45 4MATIC+の諸元(セダンタイプ)
| 馬力/トルク | 680PS/1,759N・m |
|---|---|
| 駆動方式 | 4WD |
| ボディサイズ | 4,742×1,859×1,469mm |
| 重量 | 2,280kg |
CLAと言えば、メルセデスのラインナップでは最も下に位置するエントリーモデル。いわゆる、Aクラスファミリーになる。
しかし、新型メルセデスAMG CLA 45 4MATIC+が提示したスペックはこれまでのコンパクト・スポーツの概念を一掃するものとなっている。
そこに並ぶ数字は、一昔前のスーパーカーを凌駕する、文字通り異次元の領域に達しているからだ。
その心臓部を司るのは従来の内燃機関ではない。
フロントに1基、リアに2基を配した合計3基のアキシャルフラックスモーター。
…すなわち、電気自動車である。

システム合計出力は680ps、そして最大トルクは驚愕の1,759N・mという数値である。
その強大すぎるトルクを路面へ伝えるため、駆動方式は先代同様に4WDである。
しかし、その一方で大トルクを必要としない巡航時などはフロントモーターを切り離すディスコネクト・ユニットが備わり、後輪駆動として効率的にエネルギーを使用する。
0-100km/h加速はわずか3.0秒。
電動化により鈍重となった約2.3トンという重量級のボディを、物理法則を無視するかの様に力業のゴリ押しで前方に弾き飛ばすその瞬発力は、電気駆動ならではのゼロ回転から最大トルクを発生させる特性がもたらす恩恵さまさまだ。
また、この異次元の加速を支える技術的背景として、800V高電圧システムと94kWhの高性能バッテリーの存在を忘れてはならない。
単に大出力を出すだけでなく、330kWのDC急速充電に対応することで、わずか10分で270km以上の航続距離を回復させる実用性も兼ね備えている。
EV化による数値向上は先代モデルからの進化か

先代モデルに搭載された傑作機【M139】
メルセデスAMGの歴史において、「45」という数字は特別な意味を持ってきた。
それは、マイスターが「One Man, One Engine」の哲学に基づき、一基ずつ手作業で組み上げる直列4気筒エンジンの最高峰を象徴していたからである。
先代モデルであるCLA 45S(C118)に搭載されたM139型エンジンは、421PS/500N・mという動力性能を誇る量産車としては「世界最強の2リッター」の傑作機であった。
シリンダー壁面に鏡面仕上げを施すナノスライドコーティングや、169,000rpmという超高速回転を実現したツインスクロールターボチャージャーなど、過剰とも言えるほどに注ぎ込まれた技術は、まさにAMGの情熱の結晶と言えるものだった。
私も同型エンジンが積まれているGLA 45 Sを現在の愛車としているが、日常使いできるコンパクトな車体に対して狂気の動力性能を節々から感じる。


◆新型と先代モデルの諸元比較
| 新型 CLA 45 | 先代 CLA 45 S | |
|---|---|---|
| 馬力/トルク | 680PS/1,759N・m | 421PS/500N・m |
| 駆動方式 | 4WD | 4WD |
| ボディサイズ | 4,742×1,859×1,469mm | 4690×1855×1415mm |
| 重量 | 2,280kg | 1,680kg |
電動化による新たな極致と賛否ある官能性の表現

今回発表された新型CLA 45 4MATIC+において、先代にあった純粋な内燃機関は取り払われ、代わりとして3基の電気モーターが鎮座することとなった。
最高出力は先代の421PS/500N・mから一気に680PS/1,759N・mという、もはや内燃機関の常識では測りきれない数値を叩き出している。
技術的なハイライトとしては、つい先日発表されたフラッグシップEVである「AMG GT 4ドアクーペ EV」譲りのアキシャルフラックスモーターの採用にある。
従来のラジアルモーターよりも圧倒的に薄く、高出力密度を誇るこの最新ユニットが、M139型エンジンに代わる新たな「AMGの核」としての役割を担っている。

ただ、忘れてはならないのがスペックという「数値」がどれほど肥大化しようとも、スポーツカーの価値を最後に決めるのはドライバーの五感を揺さぶり、魂を熱狂させる「官能性」に他ならないということだろう。
静寂こそが美徳とされる電気自動車(EV)の世界において、メルセデスAMGが新型CLA 45 4MATIC+に込めたこだわりは、デジタル技術を駆使してアナログな情熱を再定義することであった。
その象徴となるのが、新開発のドライブモード「AMGFORCE S+」だ。
走行音の徹底的な再現

AMGのエンジニアたちは、音のないスポーツカーを魂の抜けた彫刻にしないため、内燃機関時代の名機「M139」の咆哮を徹底的にデジタル解析した。
13個のマイクを車内外の戦略的なポイントに配置し、アイドリングから高負荷域まで1,600回以上の詳細な測定を実施。
この膨大なデータに基づき、単なる疑似音の再生に留まらない、加速Gや負荷状況に完璧にシンクロする「AMGリアルパフォーマンスサウンド」を創り上げたのである。
これにより、加速時の炸裂音や減速時のバブリング音までをも再現した。
これを演出と割り切って寛容に受け入れるか、それとも単なるフェイクと冷淡に切り捨てるか。
市場が答えを出すことになるだろう。
五感を揺さぶるマシンの魂動

しかし、彼らの追求は「音」だけでは終わらない。
AMGは、ドライバーが身体で感じる「鼓動」こそが官能性の核心であると考えており、標準装備される「アクティブ・シート・シェイカー」は、エンジンの振動をシミュレートし、アイドリング時の微かな震えや、高回転域でのダイナミックな鼓動をシートを通じてドライバーへ直接伝える。
さらに、シフトチェンジ時のわずかなトラクション遮断を再現する「疑似シフトショック」までもが組み込まれ、多角的な没入体験を実現しようとしている。
「数値」という左脳的な満足と、「高揚」という右脳的な歓び。
新型CLA 45 4MATIC+は、その両極を極めて高い次元での融合を試みている。
それは、内燃機関の終焉を嘆くのではなく、テクノロジーによって「走る歓び」をさらなる高みへと昇華させようとする、アファルターバッハの揺るぎない決意の証明かもしれない。
AMGの電動化戦略とマーケットへの影響

新型CLA 45 4MATIC+の登場は、単なるモデルチェンジの枠を超え、メルセデスAMGが描く壮大なロードマップの序章に過ぎない。
2026年6月、彼らは2027年以降に合計27車種もの新型車を投入する野心的な計画を明かした。
これは、宿敵BMW Mを追撃し、電動化時代におけるパフォーマンス・ブランドの覇権を確固たるものにするための猛烈な攻勢である。
今回のCLA 45は、その先陣を切るまさに切り込み隊長として、市場の価値観を根底から揺さぶる役割を担っている。
かつて、4気筒ハイブリッドへと舵を切ったC63 S E PERFORMANCEは、スペックこそ先代を圧倒しながらも、V8の咆哮を愛するファンからは「官能性能の欠如」という手厳しい洗礼を受けた。

技術的な「正しさ」が必ずしも市場の「歓び」と一致しないことを、その販売不振は残酷なまでに証明した。
しかし、今回のCLA 45は、内燃機関の「代替品」であることを止め、純粋なEVとして、その議論に新たに立ち向かっていく姿勢を見せた。
「EV時代のAMGに魂はあるのか?」という問いに対し、アファルターバッハのエンジニアはデジタルと物理体験の融合という答えを用意した。
AMGFORCE S+による精密な音響再現や、シートシェイカーによる疑似的な鼓動は、単なる懐古主義ではない。
それは、ガソリンが燃える爆発力を、電子が駆け抜ける圧倒的な瞬発力へと昇華させ、ドライバーの五感をハックしようとする新たな挑戦である。

今後のマーケットにおいて、このCLA 45が与える影響は大きいだろう。
0-100km/h加速3.0秒という数値は、もはやスーパーカーの領域をコンパクトセグメントの手元に引き寄せたことを意味する。
さらに、ChatGPTやGoogle Geminiを統合した第4世代MBUXによるAI体験や、最大670kmを超える航続距離は、ストイックなスポーツ走行と未来的なデジタル・ラグジュアリーをシームレスに繋いでみせた。
AMGは電動化と官能性とスペックという非常に困難な問題を立ち向かう姿勢を見せた。
恐らく、市場が満場一致でかつてのV8を宿したAMGに対する姿勢の様に受け入れるのは5年、10年…もっと先になるかもしれない。
しかし、140年の歴史を紡いできたブランドが、ハイパフォーマンスEVへ舵を切ったのは市場にとても大きな波紋を起こすことになりそうだ。
出典:Mercedes-Benz

